「異国の地でも大丈夫」の自信を打ち砕かれ、ゼロから立て直したキャリア

イギリス南部の海に近い街から、Skypeで取材に応じてくれたウエストゲート 積田 真奈美さん。日本で現在の夫と知り合い、海を渡って海外生活を始めたものの、なかなか仕事が見つかりませんでした。

通勤が大変だった正社員などを経て、現在は飲食店勤務のほか、女性専用クラウドソーシングサービス「Woman&Crowd(ウーマンクラウド)」からのライティング、夫の事業の手伝いなど、充実した日々を送っています。


得意の英語を活かせる仕事に就いたが、収入やプレッシャーにジレンマ

英語が得意だった真奈美さんは、大学卒業後、子ども向けの英会話教室にパートとして勤務。外国人教師の採用などを担当する人事課でした。

「得意な英語を活かせる仕事でしたが、ひとり暮らしな上、雇用形態がパートなので経済的に余裕がありませんでした。学生時代の友だちが正社員として勤務しているのを見ると、『私はこのままでいいのだろうか』と不安に駆られる日々でした」


経済的な不安から、23歳の時に転職。英会話教室への入社で、同じ業界ではあるものの、待遇面はアップしたそうです。

「無料体験に来たお客様向けに商品の説明をして入会していただく『カウンター営業』でした。お客様に信頼していただいてご購入いただく事にやりがいを感じましたし、昇進も見えるのでキャリアアップしたいという欲も生まれました」

頑張るほどに成果が見える営業の仕事でしたが、ストレスから徐々に体調を崩してしまいます。

「英会話教室は、最初にお客様に大きな金額をお支払いいただきます。そのため、『目に見えない物を売る』『信用を売る』というプレッシャーが重くのしかかってきました。また、毎月予算の達成に追われ、スタッフのキツい物言いに辛い思いをすることも…。一応週休2日でしたが、休みが取れなかったり、サービス残業も多く、ストレス性胃炎などを患ってしまいました」

入社した頃に感じていたモチベーションは徐々に下がり、ずっと働き続けるイメージが持てなくなってしまいます。


付き合っていた彼のもとへ渡英するも、当時はひどいホームシックに

以前の職場で知りあってからお付き合いしていたのが、現在の夫。ちょうど彼がイギリスへ帰国するというので、仕事を辞め、彼に付いていく決意をします。1年先に帰国していた彼を追いかけるように、イギリスへ飛び立ちました。

「辛くなっていた仕事を辞められるという安堵感が先に立ち、海外に住めるのは純粋に楽しみに感じました。英語には自信があったので、すぐに仕事が見つかると考えており、新しいことに挑戦するという意欲を持って渡英したのです」

窮屈に感じていた日本を抜け出し、新たな異国の地へ――ところが、真奈美さんを待っていたのは厳しい現実だったのです。

「実際には、仕事がなかなか見つかりませんでした。今思えば自分が悪いのですが、仕事を選んでいたように思います。夫の実家に住んでいたので、仕事で外に出なければお義母さんとずっと一緒に過ごすことになります。当時はそりが合わず、徐々に関係が悪化していくような状態で…」

現地に友だちもおらず、長期に渡るホームシックに。そんな状況を打破してくれたのは、インターネットで見つけたファッション誌の翻訳の仕事でした。カフェで仕事をするなど外に出る機会を設け、義母との関係も少しずつ改善していきます。

「カフェで仕事をしていると、日本と違って話しかけてくれる人もいるのです。そこで友だちができ、世界が広がっていきました」


願望だった正社員は、1年足らずで退社

翻訳は楽しい仕事でしたが、フリーランスではなかなか収入が増えないため、正社員に対する願望が生まれます。求人に応募するなか、日系美容院の受付業務で正社員としての採用が決まりました。

「当時住んでいた場所から勤務先のロンドンへは片道2時間。実は土地勘があまりなかったため、それほど遠いとも思わず応募したのです。通勤が大変だとわかっても、正社員という魅力から通うことに決めました。でも、スタートしてみると朝が早くて帰宅は遅い。お給料がよくても、交通費が出ない、税金が高いなどの理由でそれほどメリットを感じず、1年ほどで退社してしまいました」



レストラン勤務とライティングの仕事が安定した収入に

フリーランス、正社員などを経験し、どちらの苦労も身に染みて感じた真奈美さん。現在はレストランで働き安定収入を得ながら、クラウドソーシング「Woman&Crowd」でライティングの仕事をこなしています。

「近くの日本食レストランで、パートのような形態で働いています。ロンドンで正社員として働いていた頃の『収入』-『交通費』-『税金』で考えてもさほど変わりないのが実状です。普段は12時から16時半までで、ときどき23時半までのことも。また、17時半からのディナータイムだけ働く日もあります」

その合間に、Woman&Crowdのライティング業務をこなします。

「空いている午前中と、16時半に帰れる日は夕飯後にも。もともと本を読むのが好きだったので、文章を書くのが苦ではありません。イギリスのことや、リクエストいただいた内容を書いています。4~5社ほどから継続してお仕事をいただいており、こちらもあまりばらつきのない定期収入になっています」

その他、以前やっていた翻訳の仕事のオファーが来ることも。さらに、夫が勤める語学学校のマーケティングを依頼され、日本へ訪れリサーチすることもあるのだとか。


イギリスでは「働かない」という選択肢はない

住まいをイギリスに移して3年。真奈美さんの気質は、イギリスの風土に合っているようです。

「日本にいた頃は窮屈に感じていたので、自由度の高いイギリスは自分に合っていると思います。いくつかの仕事を持っているのも、充実感がありますね。ライティングの仕事は期日が決まっているのでときどき辛く感じますが、フレキシブルに自分のペースでできるのが魅力。体調を崩すなど、どうしても間に合わないときは相談もできます。少しずつ、長く続けていけそうです。レストランは、オーナーがとてもいい人でとても楽しい。唯一の日本人コミュニティでもあるので、大事にしていきたいです」


そんな真奈美さんにとって、「はたらく」とは何でしょうか?

「『自分の一部』でしょうか。子どもができても働き続けると思います。イギリスは女性が働いて当たり前で、働きやすい環境があるので、『働かない』という選択肢はないのです」


収入をアップすべく転職したり、チャレンジ精神を持って渡英したり、正社員に憧れて片道2時間半の距離を通ったり――やりたいと思ったことをひとつずつ実現してきた真奈美さん。決して平坦な一本道ではありませんが、失敗もしながら少しずつスキルを重ね、自分らしく充実した歩みを着々と進めています。


文:栃尾江美(アバンギャルド/WOOTS)