自らを「冷たくて合理的」と称する社長が女性に優しい人事制度を導入するワケ
「チームのことだけ、考えた」というタイトルの書籍を上梓し、ユニークかつ自由度の高い人事制度を余すところなく公開しているサイボウズの代表取締役社長 青野慶久さん。女性に優しい人事制度のメリットや、青野社長が考える今後の課題などをお伺いしてきました。
新しく人を採用するより、復職してもらったほうがコスト削減になる
サイボウズでは、労働時間の長短と、場所の自由度をそれぞれ3段階に分け、社員が自分で決められる「選択型人事制度」を導入しています。「会社でバリバリ働きたい」「短い時間で、在宅でも働きたい」など、希望に応じて働き方を変えられるのです。
また、育児休暇、介護休暇として最大6年間休めるという制度もあります。社員のためにそこまでの制度を作る大きな理由は何なのでしょうか?
「子どもは健康で産まれてくるとは限りません。健康だとしても、双子や三つ子になるかもしれません。また、希望通り保育園には入れない場合もあります。産休、育休が短ければ、制度に当てはまらない人は辞めるしかなくなってしまいます。長い育児休暇制度を設けたのは、『できれば戻ってきて欲しい』という思いからですね。先日も、認可保育園に入れなかった社員がいましたが、経営者としては『いつまでも待ってるよ』というスタンスでいたいです」
出産・育児などで休んでいた社員の復職を積極的に推奨する理由はどこにあるのでしょうか。産休や育休で数年間働けないなら新しい人を雇った方がいい、と考える経営者もいるのでは……?
「採用には、多くのコストがかかります。おそらくひとりに数百万円。さらに、入社後の教育コストも発生します。新しく雇うより、戻ってきてくれた方がいいんです。よく『社員に優しい会社ですね』と言われるのですが、そんなつもりはなく合理性で考えています」
「自分は優しくない」と言う青野社長。会社にとっても、多様な働き方を受け入れたほうがメリットは大きいと考えているようです。
働きやすいとの評判から、中途採用の応募者数が右肩上がり
「育児をしていたり在宅で働いている人は、仕事以外のネットワークによって多様な情報を持っています。そこで新しいアイデアにつながることも多いのです。長い時間働いても会社と家の往復をしているだけでは、視野が広がりません。特に我が社はグループウェアを扱っているので、『在宅勤務の人たちがこんなことに困っている』というリアルな声は必要不可欠。営業にも役立ちます」
また、フレキシブルな人事制度を採用することで、意外なところでも効果があったのだそう。
「採用にはとても効果がありました。女性が働きやすい会社という認知がされているので、特に中途採用で希望者が増えています。新卒で入った会社が男性社会だったり、出産して出世ラインから外れるなどして、働きやすい会社を求めるのではないでしょうか。やはり女性の割合が高いです。ただ、社内では女性に限らず、育児休暇を取っている男性エンジニアもいます。僕も育児休暇を取りましたが、家事スキルが上がるので男性も取るべきだと思います」
円満家庭を支援するような制度により、感謝されることも多いはず。感動的なエピソードにはこと欠かないのではないでしょうか?
「基本的に僕は冷たいタイプなので、感動するようなことはなく、離職率が下がり余計なコストをかけなくて済んだっていう喜びです(笑)。ただ、そうだなあ、ある社員に『何でもできるから、サイボウズを辞める理由がないんです』と言われたのは笑ってしまいました。あとは、社員が職場に子どもを連れてきてくれたりすると嬉しいですね」
自らを「冷たい」と言いつつ、子どもが遊ぶ姿を見ながら目尻の下がる青野社長が目に浮かぶようです。
会社も社会も「多様性を受け入れる」ように変わっていくべき
自由度が高く、子育てをしながら働く女性にも不満がないように思える人事制度ですが、今後の課題はあるのでしょうか?
「普段は男女で分けることはあまりしていないんです。100人いれば100通り、人それぞれ違いますから。会社としては、より多様性を受け入れる制度にしていきたい。以前、将来的なことを考え地元の九州に戻りたいというスタッフがいたのですが、会社を辞めたくないと言います。それなら、まずは九州に引っ越して自宅をオフィスにして働いてもらおうと試みました。うまく業務が回ったので、福岡営業所を作ったのです。そのように、制度をひとつずつ増やしていくことが必要だと思っています」
男女にかかわらず「サイボウズで働きたいのに働けない」という何らかの障壁があったら、それぞれに対策を打っていく。サイボウズという会社は、どこまでも「合理的に」多様性を追求していくようです。
一方で、日本の社会にはどんな課題があると考えているのでしょうか。
「同じように、『多様性を受け入れる』ということですね。僕はよく夫婦別姓のことを例として挙げるのですが、『夫婦別姓にしたい』という人がいるなら、制度を作ればいい。それを認めずに『別姓ではダメだ』と言う人がいるのです。自分と違うものを排除したがるような文化は変えなくてはいけないと思います」
夫婦別姓がいいと主張するわけではなく、そうしたい人がいるなら、認めればいい。青野社長が考える「多様性」は、とてもシンプルなものでした。
さまざまな働き方を認めることで、会社にとってもメリットが大きいという事実は、家事・育児などによる制限の多い女性にとって、大きな希望の光になるに違いありません。
取材・撮影・文:栃尾江美(アバンギャルド/WOOTS)
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