カナダでは、男性の家事・育児は自然で「カッコいい」

女性が社会に出て活躍するためには、男性のサポートはマスト。特に育児中の女性は、夫の関わり方によって働き方や子育ての方針が大きく左右されます。

 これからの父親は、どのように家事・育児に関わっていくべきなのでしょうか? 2006年に父親のための育児雑誌「FQ JAPAN」を創刊した発行人の清水朋宏さんと、サイバーエージェントグループで現在ただ一人の女性社長である、Woman&Crowd代表取締役社長の石田裕子さんが語りました。

石田裕子(以下、石田)「早くから男性による育児に着目し、10年前からFQ JAPANを発行されている清水さんから見て、現在の日本では男性の家事、育児のあり方がどのように変わってきていると思いますか?」

清水朋宏(以下、清水)「先日、『江戸時代の男性はイクメンだったらしい』という記事がネットで話題になっていましたが、もともと、男性が育児することはさほど難しくないと思っています。高度成長期は、『働く人』と『家庭を守る人』を分業したほうが効率がよかったのでしょう。そのために、家族の絆が犠牲になったわけです。ところが、高度成長期が終わりを告げ、GDPが伸び悩む中で、女性が社会に進出することが解決策になるという研究結果も出ています。つまり、女性の社会進出と、男性の育児参加が必須になってきました

石田「ひとつずつではなく、セットなのですね」

清水「そうですね。男性の育児参加については、10年前と比べて価値観がずいぶん変わってきていると思います。FQ JAPANがスタートした頃は、男性が育児をするという文化がすぐに受け入れられたわけではありません。ところが、現状はかなり意識改革が進んできていると思います。『男性が育児をすることには意味がある』といった価値観や、『(男性でも)家事・育児をやってみたい』という考えが浸透してきていると思っています」

石田「確かに、意識はずいぶん変化してきました。ところが、まだ父親の役割を理解していないケースが多いように思います」

清水「それはありますね。父親の役割として育児や家事を分担することも大事ですが、そもそも父親と母親で、子どもに与える影響が違うと思っています。母親は母性本能を持って子どもを守りますが、父親は外遊びに連れ出すなど、アクティブな部分が得意です。2人の人材が揃っているのに、両方が母親になってしまうというのはもったいないと思います」

石田「子どもを抱っこ紐に入れてお出かけする際、女性は子どもの顔を内側に向けますが、男性は外側に向ける人が多いと聞いたことがあります。守るという母性本能に対して、男性は新しいものを教えていく、という側面があるのかもしれませんね」


ときには父親が子どもを連れ出して、母親にひとりの時間をプレゼント

石田「清水さんは、最初からそのようなお考えで、育児にも積極的だったのですか?」

清水「最初はそうでもなかったのです。前妻がカナダ人だったのですが、その影響を受けた部分は大いにありますね。カナダの実家に行くと、昼間は大学の教授をしているようなお父さんが家庭では自然に家事をしているのです。
食事が終わると、何も言わずに手ぬぐいを肩にかけ、洗いものを始める。最初は僕にプレッシャーをかけているのかと思ったのですが(笑)、そうではなく洗いものとバーベキューはお父さんの担当でした。実はカナダではこれが当たり前で、育児や家事は夫婦でイーブンなのですが、こんなご両親の夫婦関係を見ていて、家事・育児に参加する男性がとても格好よく思えてきたんです。」

石田「そこから、意識が変わっていったのですね」

清水「前妻に地元の大学から良い条件のオファーがあり、子どもが2歳のとき、カナダに移住したのですが、それまでは仕事がら時間がフレキシブルだったこともあり、比較的育児に参加していました。その後は逆単身赴任の状態だった僕はカナダに四半期ごと2~3週間程度滞在していましたが、日常ではない分、子どもとじっくり向き合えたと思います。良くやったことといえば、ゴルフ、サッカー、ラジコン、カートなどなど、ほとんど私の遊びになっていましたが、ゴルフなどは3才くらいからパターゴルフに連れて行っていたおかげで、5才くらいにはショートコースくらいなら一緒にラウンドしてましたね。
最近は中学生になってテニスも上達してきたので、私の往年の趣味が復活できて楽しんでいます。ゴルフなどは、息子が将来ろくに口を聞いてくれなくなっても、一日中一緒に楽しめる、とても良い投資だったのではと思っています。

一方で、今の妻との子どもは現在2歳。子どもが産まれてすぐは、私が5時頃に帰宅して家事をこなし、その後会社に戻ってくるという毎日でした。そのために、会社から家まで歩いて数分の場所に住んでいます。ただ、5時頃は会議が多く、スタッフには迷惑をかけたのではないかと……。
現在は帰りが遅くなってしまっていますが、その分洗いものは残しておいてもらい、帰宅してから洗っています」

石田「それは嬉しいですね。奥様は働いていらっしゃるんですか」

清水「はい、働いています。どの家庭もそうですが、母親は自分の時間が少ないですよね。休日は家族で出かけるのもいいですが、父親が子どもを連れて出かけて、『エステや買い物にでも行ってきたら』など、提案してあげられるといいですよね

石田「そうなんです! 男性が家事を分担してくれるのはとてもありがたいですが、母親はそれでも自分の時間がなかなか持てません。私も2人子どもがいますが、仕事を自分でコントロールできたり、仲間がいることにありがたさを感じながらも、ひとりの時間が欲しいと思うことがあります。旦那さんになかなか言えない人も多いのではないでしょうか。本当は、気づいてくれるとありがたいのですが」

清水「一般的に、男性は感情より論理を重視しますから、しっかりと要求した方がいいのではないでしょうか」

石田「個人的な話で恐縮ですが、私は自分から言うより「察してほしい」と思ってしまいますし、あまりにも気づいてもらえず何か要求する時は、仕事のように淡々と冷静な口調になってしまったり、理詰めになりがちで……(笑)。
ただ、感謝の言葉やありがたいという気持ちは伝えるようにしています」

清水「感謝したり、褒めたりということをベースにして、それでも気づいてくれなかったり、時間がかかるなら直接訴えることも必要だと思いますよ」


社会全体で子どもを育てて行くために「寛容性」が必要

石田「男性にいくら頑張ろうという意志があっても、地域や会社などのフォローがないとうまくいかないように思います。今後どのような制度や文化が整っていけばいいとお考えですか?」

清水「ひとつは、『寛容性』でしょうか。カナダでは、家族や親戚がまるで『子どもを育てるチーム』。離婚した後でも、前妻のご両親とも仲良しで、最初は違和感がありましたが、彼女の現在のパートナーや、その子どもたちとの交流もあります。
また、カナダには税金が高いかわりに学費と生活費が提供される奨学金制度があり、女性が子育てしながらでも大学などで学べるチャンスが用意されています。誰でもさまざまなチョイスができるのです。

日本では保育園の騒音問題が社会問題化していますが、子育て世代に対する寛容性が低いと思わざるを得ません。子ども達は、これからの年金を支えてくれる存在でもあるわけです。それなのに保育園の新設計画に近隣の方がバッシングするのは、長期的な視点が欠けている。相手の立場に立てていないのと同時に自分たちの首を絞めていることに気がつかないのでしょう。

多少の我慢の先にある快適さや満足感などを得ることで、自分の中に余裕みたいなものができて、また次の我慢ができる。そうやってみんなの世界が広がったり、個性を大事にする文化が生まれていくのではないでしょうか。」

石田「日本で生活していると、様々な場面で周囲の人への心配りが欠けているのを感じます」

清水「教育も大きな役割を担っていると思います。算数や国語などというのは、たくさんある能力のひとつでしかないのに、点数を付けられて優劣を決められます。
しかし、本来は科目からはみ出したところに個性があり、そこを伸ばすことでクリエイティビティに繋がっていきます。社会全体に『違いを認める』という意識が低いのは、学校での評価の仕方にも課題があると思います。
英才教育はむしろ賛成で、日本でも飛び級があっても良いと思いますが、勉強はあくまで一つのベクトルでしかないので、総合的な人の評価は減点方式ではなく、加点方式のほうが良いのではないでしょうか?」

石田「教育から変えるとなると20~30年スパンで考える必要があるのかもしれませんね。はみ出した能力を活かせるような教育方針に変わっていかないと……。
旦那さんが家事・育児をするというのは、ひとつの『点』でしかなくて」

清水「いろいろな『点』が発生し、つながって『線』になり始めていますよね。
FQ JAPANを創刊してから10年で、大きく変わる兆しが見えてきています。『イクメン』『女性活躍推進』『ワークライフバランス』などのキーワードのほか、育児世代に向けたメディアも同時多発的に登場しています。よい方向にシンクロしていると思いますよ」

「当事者意識」を持つことで、行動に移せるはず

石田「よい方向に向かいつつも、まだ実行できない人が多い中、どのようにすれば行動に移す人が増えていくのでしょうか」

清水「インターネットによって、誰でも世の中の変化を目の当たりにすることができます。情報へは簡単にアクセスできますが、行動に移すことは簡単ではないのでしょう。やはり、『当事者意識』がキーになると思います。人ごとではなく、自分にも関係があるという意識ですよね。
例えば、『自分が社会に出たら教育とは関係がない』ではなくて、今後の日本を担う問題だと認識できるかどうか」

石田「『自分ごと化』ができるか。大事な観点ですよね」

清水「女性が普通に仕事できるという現実が、『日本の偏り』を是正していく風穴になるはずです。同時に、男性側は『男が稼ぐべき』という認識から解放されます。
僕は、女性の方が、協調性が高いと思っているのです。保育園に息子を迎えに行ったとき、仲のよい女の子とどちらが先に靴を履けるか競争をしていました。勝ち負けに固執している息子に対して、女の子の友達は『だいちゃん、一等賞!』とうちの子を立てていました。2歳の女の子ですらそうなのです。
これからは、経営層にもっと女性が入っていくことで、競争を重視するのではなく、協調性のある社会を実現していけると思います」



取材・文:栃尾江美(アバンギャルド/WOOTS)