小学生時代からの目標を視野に入れ、「地域コミュニティ」を創る女性起業家

角田千佳さんが代表を務める株式会社エニタイムズは、東京・青山にオフィスを構えています。リノベーション後に入居したという室内は、白を基調とした壁面やオフィス家具に加え、一面がほぼすべて窓! 外の光がたくさん入るため、日中は照明がいらないほど明るいのだとか。

そんなオフィスにぴったりの雰囲気を醸し出す角田さん。一見華やかに見えて、しっかりと芯のある生き方や働き方は、参考になるヒントがたくさんありました。


小学生で途上国の開発援助をしていきたいと心に決めた

角田さんはいくつかの仕事を経験してきていますが、実は子どもの頃から、途上国の開発援助に関わりたいと強く思っていたそうです。

「小学生の時に、緒方貞子さんの本を読んだのがきっかけです。日本人女性で初めて国連の難民高等弁務官を務めた方。自分と同じ日本人女性という境遇に親近感を覚え、そして人道支援に力を注ぐ姿に感激しました。子どもながらに『私も途上国で開発援助をしたい』という使命感のようなものを持ったのです」

その後もさまざまなことに興味を持ちましたが、途上国支援ほど心を揺さぶられることはなかったのだとか。その思いを、今の今までずっと持ち続けています。

「途上国の開発援助をするという最終目的のために、金融や事業の経験を積みたいと思っていました。そのため、大学卒業後は証券会社に入り、株や債券の営業を3年、その後、IT企業でPRの仕事を2年半勤めました。退職後、国連で働くことも考えたのですが、自分のアイデアを形にしていきたいという思いが強かったので、それなら自分で事業をしようと」

途上国の支援をするのは、国連の他にNPO法人などが一般的なものの、NPOは善意を頼りにした“ボランティア事業”という色合いが強く、それもまた不自由に思えたそうです。民間企業として起業することを決め、2013年に会社を立ち上げます。


地域のコミュニティを作り、人と人とをマッチング

会社の事業として、スタート時から途上国をターゲットにしなかったのはなぜでしょうか。

「途上国に対するツテも、事業の成功実績もありません。まずは日本から始めて、信用や事業のノウハウ、資本を増やす必要があると考えました。将来的に途上国の支援に役立つスキルやノウハウで、日本で足りないものは何かと考えたときに、『地域コミュニティ』だと思ったのです」

そこでスタートさせた「ANYTIMES(エニタイムズ)」は、インターネットで個人と個人を繋ぐプラットフォーム。日本人が失いつつある「ご近所づきあい」をインターネット上に再構築しようというものです。

「“依頼したい人”と“手伝いたい人”をマッチングします。家具の組立やペットの世話、家事代行など、日常のちょっとしたことが中心です。ユーザーは依頼側でも提供側でもあり、お互いに評価をするシステム。よい評価が溜まっていけば、次の取引で有利になっていきます」

昔なら、「重いものを運ぶから手伝って欲しい」「少しの間ペットを見ていて欲しい」など、ご近所づきあいの中で気軽にお願いできたことも、今ではなかなか難しいもの。エニタイムズを使えば「手伝いたい人」と繋がることができ、お金のやりとりも代行してくれます。また、手伝う側は、地域の人を助けたいという欲求を満たし、自分のスキルも活かせるのです。

しかし、地域のコミュニティができ信頼関係が深まっていくと、サービスを介さずに直接依頼するようになってしまうのではないでしょうか?

「正直、このサービスを使わなくてもいいくらいに地域コミュニティが発展したら理想的です! それでも、エニタイムズはユーザーの助けになれると思っています。例えば、サービス利用料がもし無料になったら、もらえる金額は直接契約と同じ。評価が蓄積されたり未払いのリスクが少ないため、エニタイムズを使うメリットがあります。ただし、それでは事業が成り立たないので、手数料ではないマネタイズモデルも考えています」

海外展開の思いは「女性ならではの悩み」でさえ、ものともしない

角田さんのもともとの目的だった途上国の開発援助。今後、会社として海外展開はどのように進めていくのでしょうか。

「どのように展開するかはまだ未定ですが、今年中には国や地域を決めたいと思っています。5年以内には事業としてスタートしたい。メンバーも思いを理解し、同じ意識を持ってくれています。メンバーの国籍もさまざまなので、海外展開の大きな力になってくれるはずです」

何年もかけて海外進出を目指す女性起業家となると、プライベートで結婚や子育てについてどう考えているか気になるところ。

「実は、私自身はあまり気にしていません。例えば男性だったら、予定のないうちから、結婚生活や子育てを考えて海外勤務を諦めることは少ないと思うのです。私も同じ。結婚相手になる人に現地についてきてもらってもいいと思いますし、どうしても日本を離れられなかったら別々に暮らせばいい。子どもができたら、会社に託児所を作って一緒に出勤するかもしれませんし、海外に連れて行くかもしれません。選択肢は無限に考えられると思うのです」

相手との話し合いの中でベストな解決策を探していく。合理的な考え方ながら、「ずっと仕事を続けていく」という気持ちは揺らがないそう。「子どもの頃の思いにとらわれているのかもしれませんけど」といいながらも、それをポジティブに受け入れ、端から見ても清々しいほどです。


やりたいことを実現させるために働いている

自分が決めた道を迷いなく進んでいるように見える角田さんにとって、「はたらく」とはどういうことなのでしょうか。聞くと、これまでの質問では軽快に回答してくれていた角田さんが、初めて答えに窮することに……。しばらく間を置いて、こう答えてくれました。

「あまり、意識したことがないです。願望を実現させる過程が“はたらく”ということなのかもしれません。私にとっては、やりたいことを実現させるための道のりとも言えるような気がします」

オンとオフの切り替えもあまり意識していないため、夢に向かう角田さんにとって「はたらく」ことは息をするように、当たり前のものなのかもしれません。

「まだ何も成し遂げられていないので、これから事業拡大に向けて更に注力していきます。また『自分のスキルをシェアしたり、家のことをアウトソーシング(外部委託)するのは、ネガティブではなくクールな生き方』だと、メディアやイベントなどを通じて発信していきたいです」

イベントなどでは、「自分もユーザーとして会場に混ざり、一緒に話をさせていただくことがある」のだそう。途上国という遠い場所へ思いを馳せながら、地域の小さな声にまで耳を傾ける――これから、角田さんが世界中に創り出すコミュニティによって、数え切れないほどの感謝や笑顔が生まれることでしょう。


取材・撮影・文:栃尾 江美(アバンギャルド/WOOTS)